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健康デザイン研究所 > 健康経営に必要なこと

健康経営とは

健康経営とは、「社員の健康経営的な視点で捉え、それを戦略的に促進させる経営戦略のこと」です。

2005年に「健康経営」という概念を構築し、翌年「健康経営研究会」を設立してその普及に務めてきた同会副理事長である平野治氏によると、ともすれば「コスト」として捉えられがちな「」こそが企業にとって最も重要な資産」であり、そこに積極的に「投資」をして社員の健康を促進させ、企業として然るべき「リターン」を獲得することが「健康経営」の根底にあるといいます。

これまで多くの企業は、生産設備や新商品開発などに多くの「投資」を行ってきましたが、社員の「健康」に対して投資することはほとんどありませんでした。
ところが近年、GAFAに代表されるように「モノ」よりも「コト」が商品としての価値を高める中で、「」こそが最も大切な「資産」であり、そこに投資することが企業戦略として不可欠であるという考え方が高まってきたのです。

栄養や運動指導などによる「肉体的な健康」促進に留まらず、「社会的な健康」を追求するために、働きやすい職場環境(いごこち)を整備したり、コミュニケーション環境を改善したりすることで、社員のやりがい自発性を引き出し、「精神的な健康」を高めていくこと。
このように、一人ひとりの「」の健康を高め、その資質を最大限に活かす仕組み作りに資本投入し、企業価値や内部収益を高めていく経営戦略が「健康経営」の神髄なのです。

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健康経営の三つの効果

健康経営の効果(投資に対するリターン)は、大きく分けると以下の三つに分類されます。

1. 生産性の向上

行動経済学への貢献によってノーベル経済学賞を受賞した、米シカゴ大学のリチャード・セイラー教授によると、経済の主体は「」であり、その「」は合理性ではなく気分で動く生き物だといいます。

効率だけを考えて管理強化し、数字だけを見て合理化を追求していては、特にこれからの時代、従業員はやる気をなくし、生産性は低下するばかりなのです。

2017年にギャラップ社が行ったリサーチによると、日本人は熱意あふれる社員の割合が6%と139ヵ国中132位。労働生産性は35ヵ国中21位となっています。

また、2012年に発行されたハーバードビジネスレビューによると、幸福感の高い社員創造性は3倍、生産性は31%、売り上げは37%高く、さらに欠勤率離職率が低くなるという結果が発表されています。

働きやすい職場環境(いごこち)を整備したり、コミュニケーション環境を改善したりすることで、従業員一人ひとりが幸せを感じ、会社へのエンゲージメメントを高め、最大限のパフォーマンスが発揮できるようにポテンシャルを引き出していくこと。

コトの時代において、従業員の「健康」を促進させることは、生産性を向上させて収益を上げる最重要の要素だということができるのです。

2.企業イメージの向上

健康経営の二つ目の効果は「企業イメージの向上」です。

今後日本では、労働人口の減少が加速し、人手不足が深刻化していく中で、必要な人材を確保することは多くの企業にとって最重要課題のひとつです。
そんな中、一人ひとりの従業員の健康を考える「健康経営」を推進することで、対外的な企業価値を大きく高め、企業イメージの向上リクルーティング効果の向上を行うことができます。

また、そういった人材を確保することによる生産性の向上効果を考えると、従業員の健康に対する投資は、まさに企業の資産価値を高める上で不可欠なものと考えることができます。

3.リスクマネジメント

健康経営による三つ目の効果は「リスクマネジメント」です。

従業員が快適に働ける環境を整備することは、(早期)離職欠勤によるリスクを軽減することができ、リクルーティングコストの増大など、企業の損失を最小限に抑えることが可能になります。

また、経営者や従業員の高齢化が進む中で、一人ひとりが健康な状態でいることは、会社を運営していく上での大前提となります。

こういった様々なリスクを回避/抑制することが、健康経営の大きな効果の一つとなります。


健康経営の現状

これまで、多くの企業が健康経営を推進する中で、企業イメージが向上することでリクルーティング効果が上がったり、離職率が低下するなどの効果が多く報告されてきました。

その一方で、認定基準を満たすだけの形ばかりの取り組みや、押しつけの健康管理によって、実質的な「生産性」の向上に結びついていなかったり、逆に管理強化によって「快適」な職場環境や「健康」から遠ざかったりするケースも少なくないようです。

マネジメントとデザイニング」で触れたように、会社が行うマネジメントは、強いリーダーシップで十人を一色に染め上げ、次々と目標を達成していく成長期には有効なのですが、成熟期においては十人十色、それぞれの個性を尊重しなければ、エンゲージメントの低下離職問題など、様々な弊害を引き起こすことがあります。

このような、日本経済の成熟期における様々な課題のソリューションとして期待されている「健康経営」ではありますが、優良法人として認定されること自体が目的となったり、「」が中心に考えられることなく会社の都合が優先されたりする中で、無関心層との温度差が生じ、本来の意味での「健康経営」が浸透しないまま、形ばかりのoutput(結果)は出せても、outcome(成果)=リターンを生み出すことが難しくなっている企業も多く、健康経営の本来のコンセプトに原点回帰する必要に迫られているのが現状だと言えます。


今後の健康経営に必要なこと

健康デザイン研究所では、こういった状況を打開してoutcomeを生み出す「健康経営」を推進するためには、社員の健康を会社がマネジメントするという発想に加え、より広い視点でもって健康をデザイニングするという考え方を導入することが不可欠だと考えています。

画一的なルールや方法論を一方的に押しつけるだけではなく、「」が「会社」や「社会」の中心にあるという考えに立ち返って、一人ひとりが自分のミッションや会社との関係性と向き合う環境を作り、そのことを通して自ら健康でありたいと欲し、自ら会社のために貢献したいと思えるように、その人が持っている資質を「デザイニング」によって最大限に引き出していくこと。

つまり、それぞれの企業が、国連が提唱するSDGsなどの社会的な使命企業理念を再確認しながら、自分たちの職場に合った「働きやすい環境」を対話などを通して再構築し、社員一人ひとりのやりがいや自発性を引き出していくことが大切になるのです。

こういった「健康デザイン」の発想が、これからの健康経営には不可欠であり、ひいてはこれからの企業経営に不可欠であると、私たち健康デザイン研究所は考えています。

※関連『モチベーションデザイン

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これからの健康経営 (平野治)

皆さんは、会社の未来の姿をイメージして仕事をしていますか?

この視点は、健康経営で最も重要な要件といっても過言ではないでしょう。
人のモチベーションは、未来に向かうマインドがあるからこそ高まるものです。
過去の課題を解決することも大事なことですが、課題解決型のマインドだけでは、モチベーションを上げづらいというのも事実です。

健康経営は、人資本をどれだけ高めるかがキーになります。
人はそれぞれにポテンシャルをもっていますが、そのポテンシャルは引き出さないとパフォーマンスにはつながりません。
そのためには、未来創造型のマインドが必要になります。

『明日がある』という永六輔さんが作詞した歌がありますが、この歌が世に出たのは日本の高度成長期です。
前回の東京オリンピックや大阪万博が開催された時代でもあります。

この時代は、社会そのものが明日への希望をもっていた時代だと思います。
多くの人は未来の豊かな暮らしを想像しながら毎日を過ごしていたと思います。
時代が未来志向だったともいえます。

その一方で、今の時代には多くの社会課題があり、そのための解決をどうすればよいか、といったことを毎日のように考えているのではないでしょうか。
このような時代背景の中では、人のモチベーションが下がってしまうのも無理ありません。

恐らく、そんな時代だからこそマインドフルネスが多くの企業に取り入れられているのだと思います。
マインドフルネスは、過去のことがすべて集約されている今この瞬間を認めてリセットし、今すべきことに能力を向かわせることに長けています。

こういった手法によって、山積みの課題を今、目の前にあるものとしてシンプルに捉え、そこから改めて未来に意識を向けることで、閉じ込められていたポテンシャルを引き出していくということが、今まさに多くの企業で必要とされているのだと思います。
そして同時にこういった考え方が、健康経営の戦略視点でもある「社員のポテンシャルを引き出しパフォーマンスを上げる」ということにつながっていくのだと思います。

このような流れを受けて感じるのは、今まさに健康経営次の段階に進む時機に来ているということです。

国や会社主導で健康経営のインフラが整えられてきたこの段階で、その上で「人資本づくりの戦略メソッド」と「マインドデザインメソッド」を組み合わせるという新しい発想、まさに健康デザインの発想で、健康経営を次のステップへと進めていく時期が来ていると感じています。

人を会社に向かわせるのではなく、会社と人を同時に同列で捉え、共通の未来を考え、それを双方でしっかり共有するという視点で会社のマネジメント戦略を再構築していくフェイズに来ているのです。

課題解決型から未来創造型の健康経営へ。

そんな未来を、皆さまと共有できればと思っています。

平野 治

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